身近な食材で肩こりをケアする薬膳・養生食
はじめに
デスクワークが続いたり、同じ姿勢を長時間続けたりすることで、多くの方が肩こりを感じていらっしゃるのではないでしょうか。つらい肩こりは、日常生活の質にも影響を及ぼすことがあります。
肩こりのケアというと、マッサージやストレッチを思い浮かべることが多いかもしれません。これらももちろん大切ですが、日々の食事からも体の中の状態を整えていくアプローチがあります。それが、薬膳・養生の考え方です。
薬膳や養生と聞くと、「特別な食材が必要なのでは?」「なんだか難しそう、お金がかかりそう」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、決してそんなことはありません。私たちの身近にある食材を上手に活用するだけで、体の中から肩こりをケアしていくことが可能です。
このコラムでは、薬膳の視点から肩こりの原因を捉え、スーパーで手に入る身近な食材を使った簡単なケア方法をご紹介します。今日からすぐにでも試せるヒントを見つけていただければ幸いです。
薬膳の視点から見る肩こりの原因
薬膳では、肩こりを単に筋肉が硬くなった状態と捉えるだけでなく、体全体のバランスの乱れが引き起こすサインの一つと考えます。肩こりの背景にある主な原因として、以下のようなものが考えられます。
- 気血(きけつ)の巡りの滞り: 薬膳では、体内を流れるエネルギーである「気」と、血液などの潤いを意味する「血」がスムーズに巡っていることが健康の基本と考えます。肩こりは、この気や血の巡りが滞ることで起こりやすいとされています。特に血の巡りが滞った状態を「瘀血(おけつ)」と呼び、痛みを伴う肩こりの原因となることがあります。長時間同じ姿勢でいたり、運動不足が続いたりすると、気血の巡りが滞りやすくなります。
- 冷え(寒邪 - かんじゃ): 体が冷えると、血管が収縮して血行が悪くなり、筋肉も硬くなりがちです。外からの冷え(寒い環境)だけでなく、冷たい飲食物の摂りすぎなどによって体の中から冷えることも、肩こりの原因につながると考えられています。
- 湿(湿邪 - しつじゃ): 体内に余分な水分や老廃物が溜まった状態を「湿」と呼びます。湿が滞ると、体が重だるく感じたり、痛みが伴ったりすることがあります。肩こりに重だるさを伴う場合、この湿の影響も考えられます。湿は、消化機能の低下や、梅雨時期などの湿度の高い環境で溜まりやすいとされています。
- 気の不足や滞り: エネルギーである「気」が不足していると、体を巡らせる力が弱まり、気血の巡りも悪くなることがあります。また、ストレスなどが原因で気の巡りがスムーズでなくなる「気滞(きたい)」の状態も、肩や首周りの緊張やこりにつながることがあります。
これらの原因が単独で、あるいは複数組み合わさることで、つらい肩こりとして現れると考えられています。
肩こりケアにおすすめの身近な食材
体の中から肩こりをケアするためには、主に「体を温める」「気血の巡りを良くする」「余分な湿を取り除く」といった働きを持つ食材を取り入れることがおすすめです。ここでは、スーパーで手軽に手に入る身近な食材をご紹介します。
- 生姜(しょうが): 体を温める代表的な食材です。気の巡りも良くするとされています。生の生姜には発散作用があり、加熱すると体を温める力が強まります。
- ネギ、ニラ: これらの香味野菜も体を温め、気の巡りを助ける働きがあると言われています。特にネギの白い部分は体を温める作用が強いとされます。
- 黒きくらげ: 血を養い、血の巡りを良くする働きがあると言われています。貧血気味の方や、血行不良による肩こりにおすすめです。
- なつめ: 血を補い、体の内側から元気を養う働きがあります。血の不足による肩こりに良いとされています。甘みがあるので、おやつ感覚で取り入れることもできます。
- 青魚(サバ、イワシなど): 現代栄養学的な視点では血液をサラサラにするDHAやEPAが豊富ですが、薬膳的にも血の巡りを良くする働きが期待できる食材と考えられます。
- お酢: 薬膳では「血」をスムーズに巡らせるのを助ける働きがあると言われています。普段の料理に少し加えるだけでも良いでしょう。
- 緑黄色野菜(ほうれん草、小松菜など): 栄養をしっかり補うことは、体の基本を整え、気血の生成を助けることにつながります。特に血を補うとされる葉物野菜はおすすめです。
これらの食材を意識して日々の食事に取り入れてみましょう。
身近な食材を使った簡単レシピ・食べ方
特別な調理器具や難しい手順は一切不要です。ご紹介した食材を使った、普段の食事に簡単にプラスできるレシピや食べ方のヒントです。
1. 生姜たっぷり!体を温めるスープ
材料:鶏がらスープの素(顆粒)、生姜ひとかけ、ネギ1/2本、お好みで鶏肉、きのこ類、葉物野菜(ほうれん草など)
作り方: 1. 生姜は薄切りか千切りにします。ネギは小口切りにします。お好みで鶏肉や野菜を食べやすい大きさに切ります。 2. 鍋に水と鶏がらスープの素を入れて火にかけます。 3. 沸騰したら鶏肉、きのこ類、生姜を加えて煮ます。 4. 火が通ったら葉物野菜とネギを加え、さっと火を通して完成です。
体がじんわり温まり、気の巡りを助けてくれるスープです。朝食や、体の冷えを感じる時に特におすすめです。
2. 黒きくらげと野菜の炒め物
材料:乾燥黒きくらげ5g程度、お好みの野菜(ピーマン、にんじん、玉ねぎなど)、豚肉や鶏肉、醤油、酒、ごま油
作り方: 1. 乾燥黒きくらげはたっぷりの水で戻し、石づきを取って食べやすい大きさに切ります。 2. 野菜、肉も食べやすい大きさに切ります。 3. フライパンにごま油を熱し、肉を炒めます。 4. 肉の色が変わったら野菜を加えて炒め合わせます。 5. 黒きくらげを加え、醤油と酒で味付けして完成です。
血を補い、巡りを助ける黒きくらげを手軽に取り入れられます。冷蔵庫にある野菜でアレンジ可能です。
3. サバ缶となつめの炊き込みご飯
材料:米2合、サバ缶(味噌煮または醤油煮)1缶、乾燥なつめ(種なし)5~8個、きのこ類(しめじなど)、醤油、みりん(お好みで)
作り方: 1. 米は洗って炊飯器の釜に入れます。通常の水加減より少し水を減らします。 2. サバ缶を汁ごと加えます。 3. なつめは刻んでもそのままでも良いでしょう。きのこ類は石づきを取りほぐします。これらを釜に加えます。 4. 醤油を加えて(サバ缶の味によって調整)、全体を軽く混ぜ合わせます。お好みでみりんを少量加えても良いでしょう。 5. 炊飯器のスイッチを入れて炊飯します。 6. 炊きあがったら全体を混ぜて完成です。
サバ缶となつめを使うことで、手軽に血を補い、巡りをサポートする炊き込みご飯が作れます。なつめの優しい甘みがアクセントになります。
これらのレシピはあくまで一例です。いつもの炒め物に生姜やニラを加えたり、スープにネギをたっぷり入れたり、サラダにお酢を使ったドレッシングをかけたり、炊飯時になつめを数個入れたりするだけでも、十分に薬膳・養生の考え方を取り入れることになります。
食材以外でできる肩こり養生
食事と合わせて、日常生活で少し意識するだけでも肩こりケアにつながる養生法があります。
- 体を冷やさない工夫: 特に首や肩周りを冷やさないようにしましょう。スカーフやストールを巻いたり、冷房の風が直接当たらないようにしたりすることも大切です。
- 適度な運動やストレッチ: 同じ姿勢を避け、定期的に体を動かしましょう。軽いストレッチやウォーキングは、気血の巡りを良くするのに役立ちます。
- 入浴で体を温める: シャワーだけでなく、湯船にゆっくり浸かって体を芯から温めましょう。血行が促進され、筋肉の緊張が和らぐ助けになります。
- 質の良い睡眠: 睡眠中に体は修復されます。十分な睡眠時間を確保し、リラックスできる環境を整えましょう。
- ストレスケア: ストレスは気の巡りを滞らせる大きな原因の一つです。自分に合ったリフレッシュ方法を見つけ、心穏やかに過ごす時間を持つことも大切です。
無理なく続けるためのヒント
薬膳・養生食は、難しく考えすぎる必要はありません。毎日完璧に実践しようと気負うと、かえって負担になってしまいます。
- まずは週に1回、ご紹介した食材の中から一つでも意識して取り入れてみることから始めてみましょう。
- 好きな食材や料理から試してみるのがおすすめです。
- 季節やその日の体調に合わせて、心地よく感じられる食材を選ぶことも大切です。
- 「肩こりをケアする」という目的に加え、「今日の食事に彩りを加える」「いつもと違う風味を楽しむ」といった軽い気持ちで取り組んでみてください。
日々の食事は、体の基本を作る大切な要素です。少しずつ薬膳・養生の考え方を取り入れることで、体の変化を感じられるかもしれません。
おわりに
つらい肩こりは、体からの「もう少しケアしてほしい」というサインかもしれません。薬膳・養生食の考え方を取り入れることは、肩こりという一つの不調にアプローチするだけでなく、体全体の状態をより良い方向へ導くことにもつながります。
特別なことではなく、身近な食材を使い、いつもの食事に少し工夫を加えることから始めてみませんか。今日ご紹介したヒントが、あなたの健やかな体づくりのお役に立てれば幸いです。