身近な食材の色で選ぶ薬膳入門:五色の考え方と簡単レシピ
薬膳は難しそう?実は身近な「色」がヒントになります
薬膳や養生食に興味はあるけれど、「特別な食材が必要なのでは?」「専門的な知識がないと難しそう」「毎日の食事に取り入れるのは大変そう」と感じてはいませんでしょうか。確かに奥深い世界ではありますが、実は日々の食事を少し意識するだけでも、体に寄り添う養生につながる考え方があります。
その一つに、「五色(ごしき)」という考え方があります。これは、薬膳のベースとなる中国の伝統的な思想である「五行(ごぎょう)」という考え方に基づいています。五行は、自然界のあらゆるものを木、火、土、金、水という五つの要素に分類し、それらが互いに影響し合いながら巡っていると考えるものです。この五行の考え方は、私たちの体や、そして日々の食事にも当てはめられています。
五行説では、色もこの五つの要素に関連付けられます。そして、それぞれの色が体の特定の「臓腑(ぞうふ)」と呼ばれる機能と結びついていると考えられています。この関係性を知ることで、食材の色から体にどう働きかけるかを読み解き、日々の体調に合わせて食材を選ぶヒントを得ることができるのです。難しい専門知識は必要ありません。いつもの食卓に並ぶ食材の色を意識することから、無理なく薬膳・養生を取り入れてみましょう。
薬膳の基本「五色」と体との関係
薬膳における五色とは、青(緑)、赤、黄、白、黒の五つの色を指します。それぞれの色が五行の要素、そして体の五つの臓腑(肝、心、脾、肺、腎)と関連付けられています。ここでは、それぞれの色と関連する臓腑、そしてその色が持つとされる一般的な養生的な視点をご紹介します。
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青色(緑色)
- 関連する五行:木
- 関連する臓腑:肝(かん)
- 養生的な視点:肝は気の巡りや血(けつ)の貯蔵、解毒などに関わると考えられています。青色(緑色)の食材は、気の巡りをスムーズにし、リラックスを促す、また体の不要なものを排出する働きを助けると考えられています。
- 身近な食材例:ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、ピーマン、セロリ、きゅうりなど。
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赤色
- 関連する五行:火
- 関連する臓腑:心(しん)
- 養生的な視点:心は血の巡りや精神活動に関わると考えられています。赤色の食材は、血の巡りを良くし、体を温める、元気を補うといった働きに関わると考えられています。
- 身近な食材例:トマト、人参、赤ピーマン、いちご、りんご、クコの実、牛肉、羊肉など。
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黄色
- 関連する五行:土
- 関連する臓腑:脾(ひ)
- 養生的な視点:脾は飲食物を消化吸収し、全身に栄養を運ぶ働きに関わると考えられています。黄色の食材は、この消化吸収の働きを助け、体のエネルギーである「気(き)」を生み出す力をサポートすると考えられています。胃腸の調子を整えたいときにも意識したい色です。
- 身近な食材例:かぼちゃ、さつまいも、とうもろこし、じゃがいも、みかん、レモン、大豆製品、穀物(米など)など。
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白色
- 関連する五行:金
- 関連する臓腑:肺(はい)
- 養生的な視点:肺は呼吸器系や皮膚、粘膜に関わると考えられています。白色の食材は、肺の働きを助け、呼吸器を潤す、粘膜を強くするといった働きに関わると考えられています。乾燥する季節や、風邪をひきやすい時期に意識したい色です。
- 身近な食材例:大根、かぶ、玉ねぎ、れんこん、白菜、きのこ類、豆腐、白きくらげ、梨など。
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黒色
- 関連する五行:水
- 関連する臓腑:腎(じん)
- 養生的な視点:腎は成長、生殖、水分代謝、骨や歯に関わる、生命の根源的なエネルギー「精(せい)」を貯蔵する場所と考えられています。黒色の食材は、生命力を高め、体を温め、水分代謝を助けるといった働きに関わると考えられています。エイジングケアや冷えが気になる時に意識したい色です。
- 身近な食材例:ひじき、わかめ、昆布などの海藻類、黒ごま、黒豆、きくらげ、きのこ類、ぶどう、プルーン、黒砂糖など。
※ここで述べる臓腑や作用は、薬膳・中医学の考え方に基づくものであり、西洋医学の臓器の働きとは異なります。
日常で簡単に取り入れる「五色を意識した食事」
「五色」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、実は私たちの普段の食事に取り入れるのはとても簡単です。特別な食材や複雑な調理法は必要ありません。
一番簡単な方法は、いつもの食事に「彩り」を意識して、五つの色をバランス良く取り入れてみることです。例えば、
- ご飯に黒ごまをかける(黒)
- 味噌汁の具にわかめ(黒)と豆腐(黄/白)、ねぎ(青/白)を加える
- 卵焼きに刻みねぎ(青)や人参(赤)を加える
- サラダにトマト(赤)、きゅうり(青)、コーン(黄)を加える
- 煮物に大根(白)、人参(赤)、きのこ(白/黒)、ひじき(黒)を加える
このように、いつものメニューに身近な食材を「色」を意識して少しプラスするだけで、自然と様々な色の食材を摂ることができます。これが、五色を意識した養生食の第一歩です。
五色の考え方を学ぶことは、特定の不調を改善するためだけでなく、日々の食事のバランスを見直す良い機会にもなります。例えば、最近黄色い食材ばかり食べているなと思ったら、意識して緑の野菜や黒い海藻類を増やしてみるなど、食事の偏りをなくすヒントになります。
「今日はちょっとお疲れ気味だから黄色の食材で胃腸を労わろう」「乾燥が気になるから白い食材を多めに摂ろう」といったように、その日の体調に合わせて食材の色を選ぶのも楽しいかもしれません。
まとめ:色をヒントに、無理なく楽しく養生を
薬膳の「五色」の考え方は、難解な理論ではなく、私たちが毎日目にしている食材の色をヒントに、体に必要な栄養や働きを意識するための分かりやすいツールです。
完璧に五色を揃えようと気負う必要はありません。まずは、今食べているものに何色があるかを見てみたり、スーパーで食材を選ぶ際に「この色は何の働きがあるんだっけ?」と考えてみたりすることから始めてみましょう。
五色の視点を取り入れることで、身近な食材が持つ力を再発見し、日々の食事がより豊かで、体にも心にも寄り添うものになるはずです。難しいイメージを捨てて、色の力を借りながら、ご自身のペースで無理なく、楽しく養生を続けていきましょう。