食材の「性味」を知る薬膳入門:身近な食材で体質に合わせた選び方
食材の「性味」を知る薬膳入門:身近な食材で体質に合わせた選び方
薬膳や養生食にご関心をお持ちいただき、ありがとうございます。 日々の食事が、私たちの体調を整える大切な要素であることは多くの方が感じていらっしゃることと思います。でも、「具体的にどんな食材を選べば良いのだろう」「自分の体の状態に合った食事が知りたい」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
「薬膳」と聞くと、特別な食材や難しい知識が必要だと思われがちですが、実は身近な食材にも一つ一つ体に働きかける性質があり、その性質を理解することで、毎日の食事がもっと体調管理に役立つものになります。
今回は、薬膳の基本的な考え方の一つである「性味(せいみ)」について、専門的な知識がない方にも分かりやすく解説し、身近な食材を使って、ご自身の体質やその時の体調に合わせた食材選びができるようになるヒントをお届けします。
薬膳の「性味」とは? 体への働きかけを知る手がかり
薬膳の世界では、食材にはそれぞれ固有の性質があると考えています。この性質を理解するための考え方が「性味」です。
「性」とは、食材が体を温める性質を持つか、冷やす性質を持つかを表します。主に次の5つに分類されます。
- 寒性(かんせい)・涼性(りょうせい): 体の熱を冷ます性質を持つ食材です。熱っぽい時や、体に余分な熱がこもっていると感じる時などに良いとされます。
- 平性(へいせい): 体を温めも冷やしもしない、穏やかな性質を持つ食材です。体質や季節を選ばずに取り入れやすいのが特徴です。
- 温性(おんせい)・熱性(ねっせい): 体を温める性質を持つ食材です。体が冷えやすい方や、寒い季節などに取り入れると良いとされます。
「味」とは、食材が持つ基本的な味(酸・苦・甘・辛・鹹)とその味が持つ体への働きかけを表します。
- 酸味(さんみ): 体を引き締め、漏れを防ぐ働きがあるとされます。
- 苦味(くみ): 体の余分な熱や水分を取り除く働きがあるとされます。
- 甘味(かんみ): 体を滋養し、緩める、痛みを和らげる働きがあるとされます。
- 辛味(しんみ): 体を温め、発散させる、巡りを良くする働きがあるとされます。
- 鹹味(かんみ): 体のしこりを柔らかくする、便通を良くする働きがあるとされます。
性(温める・冷ます)と味(それぞれの働き)を組み合わせたものが「性味」という考え方です。同じ甘味を持つ食材でも、平性のものと涼性のものとでは、体への影響が異なります。この性味を知ることで、「なぜこの食材はこの時に良いのか」が見えてくるのです。
なぜ「性味」を知ることが体調管理に役立つのか
性味を知る一番のメリットは、ご自身の今の体調や体質、そして季節に合わせて、より適切な食材を選べるようになることです。
例えば、普段から手足が冷えやすい「冷えタイプ」の方や、寒い冬に体を温めたい場合は、温性や熱性の食材を積極的に取り入れるのが良いでしょう。一方、体に熱がこもりやすく、顔がほてりやすい「熱タイプ」の方や、暑い夏には、涼性や寒性の食材が体を心地よく冷ましてくれる助けとなります。
平性の食材は、どんな体質の方でも比較的安心して取り入れられる基本となるものです。
このように、性味の考え方を取り入れることで、漠然と「体に良い」と言われるだけでなく、「今の私の体にはこれが合いそう」という具体的な視点を持って食材を選べるようになります。
身近な食材の「性味」を知る
「性味」という言葉は難しく聞こえるかもしれませんが、実は私たちが普段何気なく食べている身近な食材にも、それぞれ性味があります。特別な食材を用意する必要はありません。
いくつか例を見てみましょう。
- 体を温める食材(温性・熱性):
- 野菜・スパイス: 生姜(熱性・辛味)、ネギ(温性・辛味)、ニンニク(温性・辛味)、ニラ(温性・辛味)、唐辛子(熱性・辛味)、シナモン(熱性・甘味・辛味)など
- 肉類: 鶏肉(温性・甘味)、羊肉(熱性・甘味)など
- 魚介類: エビ(温性・甘味・鹹味)など
- 体を冷ます食材(寒性・涼性):
- 野菜: きゅうり(涼性・甘味)、トマト(涼性・甘味・酸味)、ナス(寒性・甘味)、レタス(涼性・甘味・苦味)、ゴーヤ(寒性・苦味)など
- 果物: スイカ(寒性・甘味)、メロン(寒性・甘味)、バナナ(寒性・甘味)、梨(涼性・甘味・酸味)など
- 豆類・海藻: 豆腐(涼性・甘味)、緑豆(涼性・甘味)、昆布(寒性・鹹味)など
- 体を温めも冷ましもしない食材(平性):
- 穀類: 米(平性・甘味)、麦(平性・甘味)など
- 野菜: キャベツ(平性・甘味)、じゃがいも(平性・甘味)、きのこ類(平性・甘味)など
- 肉類: 豚肉(平性・甘味)、牛肉(平性・甘味)など
- 魚介類: タイ(平性・甘味)、イカ(平性・甘味)など
これらの例はごく一部ですが、普段使っている食材がどのような性質を持っているかを知るだけでも、食材選びの参考になります。
日常で実践!「性味」を取り入れた簡単レシピ・工夫
性味の考え方を日々の食事に取り入れるのは、決して難しくありません。いつもの料理に少し工夫をプラスするだけです。
工夫のヒント:
- 体調に合わせて食材をプラスする:
- 冷えを感じる時は、いつもの味噌汁にすりおろした生姜や刻みネギを加えてみましょう。
- 体に熱がこもっていると感じる時は、サラダにきゅうりやトマトを多めに使ったり、デザートにスイカを取り入れたりするのも良いでしょう。
- 調理法を工夫する:
- 同じ食材でも、調理法によって性質が変わることがあります。例えば、大根は生で食べると体を冷ます性質がありますが、加熱したり干したりすると体を温める性質に変わります。
- 体を温めたい時は、生野菜よりも温野菜や煮込み料理を選ぶのがおすすめです。
- 身近な調味料・スパイスを活用する:
- 生姜、唐辛子、シナモンなどの温性のスパイスは、少量使うだけでも体を温める手助けになります。紅茶にシナモンを加えたり、炒め物に生姜や唐辛子を使ったりするのも良い方法です。
簡単レシピ例:
- 冷えやすい方向け:生姜とネギの鶏スープ 鶏肉(平性/温性)と、体を温める生姜(熱性)とネギ(温性)を使った、シンプルなスープです。刻みネギをたっぷり加えると、温め効果が期待できます。味付けは塩や醤油で、難しく考える必要はありません。
- 熱がこもりやすい方向け:きゅうりと豆腐の冷製和え 体を冷ますきゅうり(涼性)と豆腐(涼性)を使った簡単な和え物です。ごま油と醤油で和えるだけ。暑い時期や体に熱を感じる時にさっぱりといただけます。
このように、特別なレシピ集を見る必要はありません。普段の料理に、ご自身の体調や季節を考えながら、温める食材を少し足してみたり、冷ます食材を上手に取り入れてみたりすることから始めてみてください。
まとめ:性味を知って、もっと心地よい食生活を
食材の「性味」の考え方は、薬膳・養生食の基本の一つですが、日々の暮らしに無理なく取り入れることができるものです。身近な食材が持つ性質を知ることで、その日の体調や季節に合わせた食材を選び、より心地よく過ごすためのヒントが得られます。
「難しそう」「お金がかかりそう」といった心配は不要です。まずは普段お使いの食材の性味をいくつか調べてみたり、体調に合わせて温める食材を少し足してみたりする、簡単な一歩から始めてみませんか。
毎日の食事が、あなたの体をサポートし、心身ともに健やかに過ごすための一助となれば幸いです。