身近な発酵食品で始める薬膳・養生:お腹から元気になる方法
薬膳や養生という言葉を聞くと、難しそう、特別な食材が必要そう、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、実は私たちの普段の食生活に身近にある食材の中にも、体に優しく働きかけるものがたくさんあります。今回は、その代表ともいえる「発酵食品」に注目し、薬膳・養生の視点から、発酵食品がお腹の調子を整え、体全体を元気にするヒントをご紹介します。
薬膳・養生で考える「お腹」(脾胃)の大切さ
東洋医学では、私たちの体は「気・血・水」という3つの要素が巡ることで健康が保たれていると考えます。この「気・血・水」を生み出す源、つまり栄養を取り込み、体に必要なものに変える働きを担っているのが、「脾(ひ)」と「胃(い)」です。これらをまとめて「脾胃(ひい)」と呼び、飲食物を消化吸収する、いわば「お腹」の機能全般を指しますと考えられます。
脾胃の働きが良いと、食べたものから十分に栄養を取り込み、「気・血・水」が充実し、体全体に巡り、元気でいられます。しかし、脾胃の働きが弱まると、消化吸収がうまくいかず、必要な栄養が体に行き渡りにくくなります。これが、疲れやすさ、体の重さ、食欲不振、お腹の張りや軟便といった様々な不調につながると考えられます。
つまり、薬膳・養生の基本的な考え方の一つに、「脾胃を大切にする」、つまり「お腹を健やかに保つ」ということがあるのです。
なぜ発酵食品がお腹(脾胃)に良いと考えられるのか
発酵食品とは、微生物の働きによって、食材の成分が変化した食品のことです。味噌、醤油、納豆、甘酒、漬物、酢、ヨーグルトなどが身近な発酵食品にあたります。
現代栄養学では、発酵食品に含まれる善玉菌や、それによって作られる成分が腸内環境を整え、消化吸収を助ける効果が期待できると考えられています。腸は、東洋医学でいう脾胃と密接に関わる場所です。
薬膳の視点から見ても、発酵食品は脾胃の働きを助けると考えられます。 例えば、味噌や醤油は体を温める性質(性味でいう「温性」や「平性」)を持つものが多く、冷えやすい脾胃を温めながら消化を助けることが期待できます。また、発酵によって食材が分解されているため、体への負担が少なく、消化吸収しやすい形になっているとも考えられます。
このように、発酵食品は、お腹の機能をサポートし、食べたものからしっかりとエネルギーや栄養を取り込む手助けをしてくれる、養生にぴったりの食材と言えます。
身近な発酵食品を養生に取り入れるヒント
特別なものを揃える必要はありません。いつものスーパーで手に入る、身近な発酵食品から始めてみましょう。
- 味噌・醤油:
- いつもの味噌汁は、体の芯から温まり、脾胃を養う定番の養生スープです。具材を根菜にしたり、生姜を少し加えたりすると、体を温める力がさらに高まるでしょう。
- 醤油は炒め物や煮物の味付けに幅広く使えます。発酵による旨味は、食欲がない時の食欲増進にも役立つと考えられます。
- 納豆:
- 良質なたんぱく質を含み、手軽に食べられる納豆は、脾胃を助け、気血を補うのに良い食材です。薬味にネギ(体を温め、気の巡りを助ける)や生姜(体を温め、消化を助ける)を加えるのもおすすめです。
- 甘酒:
- 「飲む点滴」とも言われる甘酒(米麹から作られたもの)は、消化吸収が良く、疲労回復に役立つと考えられています。脾胃を補い、気血を増やす働きが期待でき、養生ドリンクとしておすすめです。温めて飲むと、より体が温まります。
- 漬物:
- ぬか漬けや浅漬け、キムチなどの発酵した漬物は、少量でも食卓の良いアクセントになります。消化を助けたり、お腹の働きをサポートしたりすることが期待できますが、塩分が多いものもあるため、摂りすぎには注意しましょう。
- 酢:
- 料理に酸味を加える酢も発酵食品です。食欲増進や消化促進に役立つと考えられています。炒め物や和え物、ドレッシングなどに活用できます。
- ヨーグルト:
- 牛乳を乳酸菌で発酵させたヨーグルトは、お腹の調子を整える食品としてよく知られています。ただし、冷たいものは脾胃を冷やす可能性があるため、常温に戻したり、温かい飲み物と一緒に摂ったりする工夫も良いでしょう。
毎日の食事に無理なくプラスする簡単な方法
「発酵食品を養生のために」と意気込む必要はありません。いつもの食事に、少しずつ、無理なく取り入れることから始めてみましょう。
- まずは一品プラス: 朝食に納豆を足す、夕食の汁物を味噌汁にする、食後に温かい甘酒を飲む、といったように、普段の食事に発酵食品を一品加えることから始められます。
- いつもの味付けに: 炒め物の仕上げに少し醤油や酢を垂らす、和え物に味噌や酢を使うなど、いつもの調味料として意識的に発酵調味料を選んで使うのも良い方法です。
- 市販品も活用: コンビニやスーパーで売っている一般的な味噌、醤油、納豆、甘酒、漬物などで十分です。特別なオーガニック製品などを探す必要はありません。ご自身が手に入れやすく、続けやすいものを選んでください。
- 温かいものを選ぶ: 特に体が冷えやすい方は、味噌汁や温かい甘酒など、温かい形で摂ることを意識すると、脾胃を冷やさずに養うことができるでしょう。
まとめ
薬膳・養生の視点から見ると、発酵食品は、私たちの体に必要なエネルギーや栄養を作り出す「お腹」(脾胃)の働きを助ける、とても心強い味方です。
味噌汁や納豆、甘酒など、どれもスーパーで手軽に買える身近なものばかりです。特別な準備も技術も要りません。いつもの食卓に、発酵食品を少しだけプラスする。そんな小さな一歩から、ご自身のお腹をいたわる養生を始めてみませんか。
お腹の調子が整うことは、体全体の元気につながります。「自分にもできそう」「今日から試してみよう」と感じていただけたら嬉しいです。