薬膳・養生食で心のバランスを整える:身近な食材で簡単ケア
心のざわつき、落ち着きのなさに寄り添う薬膳・養生食
日々の生活の中で、なんとなくイライラしやすい、心が落ち着かない、といった不調を感じることはないでしょうか。これらの心の状態は、体の状態と密接に関わっていると、薬膳や養生食の考え方では捉えられています。
忙しい毎日を送る中で、知らず知らずのうちに心や体に負担がかかっていることがあります。しかし、薬膳や養生食と聞くと、「難しそう」「特別な食材が必要なのでは」「お金がかかるのでは」といったイメージをお持ちかもしれません。
ご安心ください。薬膳や養生食は、毎日の食事に少しの工夫を取り入れることで、どなたでも無理なく始めることができます。特別な食材や高価な道具は必要ありません。ここでは、身近な食材を使って、心のバランスを整えるための食事のヒントをご紹介します。
薬膳・養生から見た心の状態と食事
薬膳では、体全体がバランスを保つことで健康が維持されると考えられています。心の状態も例外ではありません。例えば、薬膳の考え方では、「気(き)」と呼ばれる生命エネルギーの流れが滞ったり、「血(けつ)」と呼ばれる血液を含む栄養分が不足したりすると、心の不調につながることがあると考えられています。
イライラや落ち着きのなさは、「気」がスムーズに巡っていない「気滞(きたい)」と呼ばれる状態や、「血」の不足などが関係していることがあります。また、体の中の「熱」がこもることも、イライラの原因となることがあります。
このように、体の内側の状態が心の状態に影響を与えるため、食事を通じて体のバランスを整えることが、心のケアにも繋がると考えられるのです。
心を穏やかに保つための食材選び
では、具体的にどのような食材が、心のバランスを整えるのに役立つと考えられるのでしょうか。薬膳の考え方に基づいて、身近な食材の中からいくつかのタイプをご紹介します。
1. 気を巡らせて滞りを解消する食材
気の巡りが滞っている状態は、風船が膨らんでパンパンになっているようなイメージです。これを解消するためには、気をスムーズに流す働きを持つ食材がおすすめです。
- おすすめの食材:
- 香味野菜: セロリ、春菊、三つ葉、しそ、パクチーなど
- 柑橘類: みかん、ゆず、レモン(特に皮)
- ハーブ類: ミント、カモミール、ジャスミンなど
- その他: ソバ、大根
これらの食材は、香りが豊かで、体の中の滞りを解消するのを助けると考えられています。お茶として飲んだり、料理の風味付けに使ったりするのも良いでしょう。
2. 血を補って心に栄養を与える食材
「血」は、体に栄養を運び、心を含む全身に潤いを与えると考えられています。血が不足すると、心が栄養不足になり、落ち着きがなくなったり、不安を感じやすくなったりすることがあると考えられています。
- おすすめの食材:
- 緑黄色野菜: ほうれん草、小松菜、にんじんなど
- 種実類: ごま、くるみ、松の実
- 豆類: 黒豆、あずき
- きのこ類: 全般
- 動物性食品: 鶏肉、卵、マグロやカツオなどの赤身魚
- その他: なつめ、プルーン、龍眼肉(リュウガンニク)
これらの食材をバランス良く取り入れることで、「血」を補い、体を内側から滋養することができると考えられています。
3. 熱を冷まして鎮静を助ける食材(補足)
イライラが強い場合、体に「熱」がこもっていることも考えられます。このような時は、体の余分な熱を冷ます働きを持つ食材を少し意識してみるのも良いかもしれません。
- おすすめの食材: キュウリ、トマト、ナス、緑豆、セロリなど。
ただし、体の冷えを感じやすい方は、これらの食材の摂りすぎには注意が必要です。ご自身の体の状態に合わせて調整することが大切です。
日常に簡単取り入れる工夫と簡単レシピ
特別な食材を用意したり、複雑な調理をしたりする必要はありません。いつもの食事に、ご紹介した食材をプラスすることから始めてみましょう。
1. いつものご飯にプラス
- ご飯を炊く際に、黒豆やあずきを少し加えて炊いてみる(滋養になります)。
- 味噌汁にきのこ類や緑黄色野菜をたっぷり入れる。
- いつもの炒め物やスープに、セロリや春菊を加えてみる。
- 食後にみかんやいちごなどの果物をデザートとして取り入れる。
2. 簡単お茶・ドリンク
- フレッシュミントに熱湯を注ぐだけのミントティー。
- みかんの皮(乾燥させて陳皮として使うとより良いですが、まずは生の皮を少し湯に浮かべるだけでも香りを楽しめます)をお湯に浮かべる。
- カモミールティーはリラックスしたい時におすすめです。
3. シンプル調理のレシピ例
例:香味野菜と鶏肉のさっと炒め
- 材料: 鶏むね肉またはもも肉、セロリ、春菊、きのこ(しめじやエリンギなど)、お好みでごま
- 作り方:
- 鶏肉は一口大に切る。セロリは斜め薄切り、春菊はざく切り、きのこは食べやすくほぐすまたは切る。
- フライパンに少量の油を熱し、鶏肉を炒める。
- 鶏肉に火が通ったら、セロリ、きのこを加えて炒める。
- 春菊を加えてさっと炒め合わせ、醤油や塩胡椒で味を調える。仕上げにごまを振る。
この一品で、気を巡らせる香味野菜と、血を補う鶏肉・きのこ類を一緒に摂ることができます。調理時間も短く済み、忙しい日にもおすすめです。
例:ほうれん草とごまの和え物
- 材料: ほうれん草、すりごま、醤油、砂糖(お好みで少量)
- 作り方:
- ほうれん草をさっと茹で、冷水にとって水気をよく絞り、食べやすい長さに切る。
- ボウルにほうれん草、すりごま、醤油、砂糖を加えて混ぜ合わせる。
ごまは血を補う働きが期待でき、簡単に作れる副菜です。ほうれん草の代わりに小松菜を使っても良いでしょう。
食事以外の養生ヒント
食事と合わせて、以下のような養生も心のバランスを整える助けになります。
- 軽い運動: ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かすことは、気の巡りを良くするのに役立ちます。
- 十分な睡眠: 心と体の休息は非常に重要です。質の良い睡眠を心がけましょう。
- リラックスする時間: 好きな音楽を聴く、読書をする、お風呂にゆっくり浸かるなど、ご自身が心地よいと感じる時間を持つようにしましょう。
- 深呼吸: イライラしたり、落ち着かないと感じたりした時は、ゆっくりと深呼吸を繰り返すことで、心を落ち着かせることができます。
まとめ:今日からできる、やさしい心のケア
心のざわつきや落ち着きのなさ、イライラといった不調は、誰にでも起こりうるものです。薬膳・養生食は、これらの不調に対して、体の中からやさしくアプローチする一つの方法です。
今回ご紹介した食材やレシピは、どれも身近なもので手軽に試せるものばかりです。いきなり全てを取り入れる必要はありません。まずは、お味噌汁にきのこをプラスしてみる、おやつの果物を意識してみる、といった小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。
薬膳・養生は、難しく考える必要はありません。ご自身の心と体の声に耳を傾け、心地よいと感じるものを取り入れていくことが大切です。毎日の食事に少しの養生を取り入れることで、穏やかな心と健やかな体を目指しましょう。